魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
コハクはたった独りで数百年をも生きてきた。


オーディンやデスとは時々会って話をしたり酒を飲んだりしたが、時々の間隔は数十年、数百年だ。

それがまさか…

こんな風にひとつの馬車にみんなで乗って、サンドウィッチを食べたり馬鹿な話をして騒いだりするなんて――


屋根の上に上がってサンドウィッチを頬張りながら物思いにふけっていると、リロイの焦った声が聞こえた。


「ラス、危ないからやめて!」


「大丈夫だってば。んしょ…」


「うわっ!?お、おいチビ!何やってんだ!」


にゅっと白い手が出てきたと思ったら、はしごを使ってラスが上がって来る。

慌てたコハクはラスの手をしっかり掴んで引っ張ると、腕に抱き留めてやわらかい頬を軽く引っ張った。


「心配させんなって。どしたんだよ」


「コーがなんか悩んでるのかなって思って。ちょっと元気がないように見えたの。違う?」


…意外と考察力のあるラスに驚いたコハクは、屋根から落ちないようにしれっと結界を張ると、赤い瞳を和らげてラスの口にサンドウィッチを持って行った。


「俺さあ、群れることなんか今までほとんどなかったからどうすればいいかわかんねえだけ。チビが心配するようなことじゃねえよ」


「そうなの?コーには沢山お友達が居るでしょ?私なんかリロイとコーだけだったんだよ?今はいっぱいお友達居るけど…コーが旅に連れ出してくれなかったら今もずっとお城に居たかも」


――父のカイが娘の影に憑いてしまった魔王を不憫に思って16歳まで城に閉じこめてきたことは、今やコハクにとってはありがたいことだった。


色んな男を出会ってしまえば、もしかしたらその中の誰かとラスが恋に落ちる可能性もあっただろうから。


コハクはラスの唇の端についた卵をぺろっと舐め取ると、流れてゆくのどかな景色を眺めてラスを膝に乗せた。


「俺はチビが城に残りたいって言うんならそれで良かったんだ。カイたちが死んで、ふたりきりになったらあんなことやこーんなことしてチビと楽しく過ごす予定だったからさ」


「あんなことやこんなことって?」


「秘密ー」


きょとんとしているラスの腹を撫でてやりながらふっと笑ったコハクは、次の休憩地点までそうやってラスをからかって遊びまくった。
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