魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「おいこら!いい加減俺のエンジェルを返せ!」


ごつんと誰かに頭を蹴られてむくりと起き上がったデスは、ぼうっとしながら目を開けた。

もちろん声の主は、コハクだ。

怒りマックスの表情で眉をぴくつかせていたコハクが、腕の中で眠っていたエンジェルをさっと攫って頰にキスをしまくる。


「まだエンジェルがちいせえからいいものの…大きくなったら添い寝なんか許さねえからな!」


「……エンジェル 誰かと…結婚…する…?」


コハクがもっとも恐れている未来の課題にデスが触れた瞬間、コハクの切れ長な瞳にぶわっと涙が溜まった。


「誰が結婚なんかさせるかよバーカ!」


「………なら…いい……」


「ケンカしちゃだめだよ」


ラスに諌められてぴたりと動きを止めたコハクは、満面の笑みに戻ってエンジェルを抱っこしたままラスをむぎゅっと抱きしめた。


「コー、痛いよどうしたの?」


「なんでもねえし。チビ、朝飯にしようぜ。今日も俺が腕によりをかけてだなあ」


ふたりが去ると、デスは再びころんと横になって昨晩見た夢のことを考えてみた。

すると胃のあたりがむかむかして、気分が悪くなる。

身体を丸めてじっとしていると、目の前に誰かがとすんと座った。


「……なに?」


「エンジェルは大丈夫」


「……?」


滅多に話しかけてくることのないシエル。

常にエンジェルを目の届く位置に置いて動いているシエルは、神秘的な色を瞳に讃えて小さく笑みを浮かべた。


「ずっと、一途だから」


「…………?」


ますますわけがわからずぼんやりしていると、シエルは腰を上げてそのまま去って行ってしまった。


一体何のことなのかーー

テントから出たデスに急に抱きついた小さな人は、エンジェルだ。

はあはあと息を切らして緑の瞳を輝かせているエンジェルの金の髪を撫でていると、無理やり身体によじ登ってきた。


「ねえ、抱っこ」


「……おはよう」


「おはよっ。あのね、パーパがパンケーキ焼いてくれたの。半分こしよ」


抱っこしてやると、くるくると表情を変えてありとあらゆる話題を口にしては、歩く方向を指示してくる。


…まだまだ、小さい。

まだまだこの小さい女の子は、大きくはならないはずだ。


あんな未来、まだまだ来なくていい。


まだまだ…ずっと。
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