魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
年中を通して春のグリーンリバーだが、街から一歩外に出ると、そこには四季がある。

現在は春から夏に差し掛かっているので夏物が多かったが、街を出る機会も多い住人たちのために冬物の服も多く取り扱っており、春夏秋冬の服が各フロアに分けて陳列されていた。

まだどこへ行くかも決まっていなかったのだが、ルゥに夏と冬を体験させてやりたいラスはまず、店内のマップを見て冬のフロアへと脚を向けた。


「あ、あの、ラス王女…ですよね?」


振り返ると、フォーマルなスーツを着こなした女性の店員が顔を真っ赤にして立っていたので、ラスは脚を止めて首を振った。


「私はラスだけど、もう王女じゃないの。店員さん…だよね?あのね、私今日はじめてお買い物するの。これお金。足りるか分からないから、足りないならこれを」


金銭感覚のないラスは派手ではないが、小さなピンクダイヤの宝石がついたプラチナのネックレスを身につけていたので、それを指して首を傾げた。


「じゅ、十分でございます!ああ…私今ラスおう…ラス様とお話を…!私がお手伝いさせて頂きます!」


そのネックレスだけで立派な一軒家を建てることができる価値のものだったが、ラスはもちろんそれを知らない。

ずっしりとした財布を受け取った店員がちらちらとこちらを見ていた店員に何事か声をかけると、何故か賑わっていた店内はいつの間にか空になっていた。

気を利かせてくれて貸切になった店内には何千着もの服があり、男物のコートを見つけたラスは、その中からダッフルコートを見つけて瞳を輝かせた。


「これコーにいいかも。背は多分185㎝位ですごく細い身体なんだけど、これでいいと思う?」


「旦那様のコハク様用にですね?ええ、あの方でしたらサイズは合うと思いますよ。素敵な旦那様で羨ましいですわ」


「でしょ?コーは私にはもったいないくらいかっこよくて素敵で優しい旦那様なの」


コハクを誉められて嬉しくなったラスがのろけて頬を緩めると、付きっきりの店員はまた頬を赤らめて、大きなカートにダッフルコートを入れた後、女性物の方から小さめの同じものを持ってきた。


「お揃いでいかがですか?色は白の方がお似合いと思いますわ」


「わあ、これ可愛い!じゃあこれにする!後ね、ルゥちゃんのも欲しいの」


「もちろんベビー服もございますよ。どうぞこちらに」


はじめての買い物に舞い上がったラスは、その後もカートが山になるまで買い物を続けた。

そして最後に向かったのは――水着のコーナーだった。
< 6 / 286 >

この作品をシェア

pagetop