魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
自分の身体のサイズを知らないラスは、メジャーを持っていた店員に声をかけた。


「水着を買いたいんだけど、サイズを知らないの。測ってもらいたいんだけど…」


「では試着室にどうぞ」


抱っこしていたルゥをベビーカーに下ろして試着室に入ったラスは服を脱ぎ、惜しげもなく身体を晒した。

ショップ店員として何百人もの身体のサイズを測ってきた店員だったが…ラスの身体を見て思わず絶句すると、メジャーを持つ手が震えて感激を隠せずにいた。


「なんてお綺麗な…!お子さんをお生みになったのに体形は崩れていませんし、素晴らしいですわ…!」


えぐれたように細くくびれた腰と完璧な形の大きな胸…

手足はすらりとしていて長く、そしてこの美貌――


完璧すぎるラスの身体を見て身体に震えが走った店員は、きょとんとしているラスにはっとして、震える手を叱咤してなんとかサイズを測ると、試着室から飛び出して行った。

そして戻って来た時には、手に白やピンクといったパステルカラーの水着を持っていて、それをラスに手渡すと、カーテンを閉めた。


「これ可愛い!ビキニ?」


「ええ、きっとコハク様もお喜びになりますよ。こんなにお綺麗なんですもの、それに…」


それから延々とラスを褒め称える口上が始まり、その間に淡いピンク色のビキニを着たラスがカーテンを開けて出て来ると、見守っていた店員たちも、ほう、と感嘆の息をついた。


「なんかこれ下着みたいでちょっと恥ずかしいかも」


鏡の前でくるりと回ってみて全体を確かめていると、店から締め出されてショーウィンドウにへばりついていた女性客たちからどっと歓声が沸いた。


――ラスは可愛い水着に目を奪われていて外が盛り上がっていることにも気付いていなかったのだが…

その人ごみを見て首を傾げた男が居た。


「この人ごみは一体なんなんだ?ちっ歩きづらいじゃねえかよ」


きゃあきゃあと歓声を上げている女性客の人ごみを縫って歩いていたコハクだったが…

店の前を通り過ぎた後その脚が止まり、そのままバックしてショーウィンドウに目を遣ると…そこには水着姿のラスが。


「チビ!?うわうわ、うわあっ、なんだあの格好!水着!?やべえっ、鼻血出る!」


最近ずっとラスを抱いていないコハクは、顔を真っ赤にさせて手で口元を覆うと、すぐさま店のドアを開けて中へ入った。
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