週末シンデレラ
高鳴る鼓動をおさえ、ゆっくりと鏡のほうへ向く。
すると、そこにはパッチリしていながらもタレ目で、透明感のある白い肌に、頬がほんのりと桃色に染まっている、“癒し系”という言葉がピッタリな女の子が映っていた。
「うわっ……これ、わたし……?」
思わず自分で“透明感のある肌”や “癒し系”なんて思ってしまうほど、自分ではないみたいだった。
しかし、鏡を覗き込むようにして近づくと、映っている女の子も同じように近づいてくるので、やっぱり自分なんだと確信する。
「ひゃー……メイクって、すごいね。ここまで変わるなんて」
悲鳴を上げながら、鏡に映った自分の輪郭をなぞる。その形さえも変わってしまっているのではないかと思った。
「今日はつけまつげ使ったし、わかりにくいけどラインはがっつり引いたし、シャドウも上手にグラデーションいれて、全体的に濃い目に仕上げたからね」
「うんうん……いつもの顔と全然違う」
麻子の説明を聞きながら、片目を瞑ったり、顔をいろいろな角度から見てみたりして、何度もうなずく。
「それにしても、みんなこんなに変わるものなの?」
世の女性がみんな、メイクひとつでこんな風に変わっていたら、スッピンになったとき、誰が誰かわからなくなるはずだけど。
「詩織は眼鏡からコンタクトにしたから、特に印象が変わるんじゃないかな。それに服装の雰囲気もいつもと違うし」
「そっかぁ……」
わたしは着ている白いワンピースの裾をつまんだ。
いつもはベージュやグレーのトップスにデニムを合わせることが多く、スカートを履いてもひざより長い丈だった。
よくいえばナチュラルだけど、麻子からはもう少し若々しい格好をしたほうがいいとアドバイスされていた。