週末シンデレラ


「けど、慣れないなぁ……」

コンタクトも慣れないけれど、ウエストラインが絞られて、裾がふんわりと開いたレース素材のワンピースはもっと慣れない。

職場でも制服であるタイトスカートはひざ丈だというのに、今日はひざ上十センチくらいの短さ。少し屈めば太ももが完全に見えてしまう。

「たまにはこういう格好もいいでしょ。ほら、髪のセットやるわよ」

麻子はわたしにもう一度座るように促すと、ヘアアイロンを持った。くしで梳いただけのショートボブが、艶を帯びて、ふんわりと丸くセットされていく。

「なんか……こんな風にいつもの自分と違ったら、騙すみたいで男の人に悪いね……」

わたしはヘアアイロンを持っていないし、コンタクトもワンピースも、先週麻子に付き合ってもらい、今日のために買ったものだった。

普段の地味な自分を知ったら、男の人はどう思うだろう。

それを考えると、罪悪感で胸が痛くなる。

「騙してるんじゃなくて、綺麗にしてるの」
「麻子……」
「それに詩織は元がいいから、今日みたいに濃いメイクをしなくても、ちょっとメイクしたりオシャレしたりするだけでモテると思うんだよね。なんで二十四年間、彼氏がいないのか不思議なくらい」
「そうかなぁ……。でも、今は先輩が怖くてオシャレできないよ」

武田さんに限らず、寿退社をたくらんでいる人は、他の女性社員の変化に敏感だったりする。影でなにを言われるかと考えると、怖くてオシャレもできない。

こんなことを他の人に言えば、なにもそこまで気にしなくても……と思われるかもしれないけど、麻子は納得したように息をついた。


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