週末シンデレラ
「あー……そういえば高校のときだっけ? わたしが詩織にメイクしてあげたら、知らない男子が寄ってきて、女子の先輩に言いがかりつけられたことあったよね」
「あれは怖かったよ……体育館の裏に呼び出されて、五人くらいの先輩に囲まれて、みんなから睨まれて。初めてのメイクでそんなことになったから、ちょっとトラウマになったんだよね。大学ではデビューしそびれちゃったんだけど」
高校のときのことは、今思い出しても身震いしてしまう。
だけど、デビューしそびれた大学では、女子の先輩に絡まれることもなかったし、友達とも仲良くできていた。
だから、目立たないほうが何事もうまくいくのだと思った。……彼氏をつくる、ということ以外は。
「詩織が地味になった理由はわかるけど、これからはそれじゃダメなんだからね」
「わ、わかってる。ちょっとメイクをするだけでいいんだよね」
「そうよ、少し手間をかけるだけで、充分かわいくなれるんだから」
「うん……これから頑張ってみる」
彼氏をつくるために、せめて休日くらいは先輩の目を気にするのはやめる。
それに、少しメイクをするくらいなら、そこまで印象も変わらないだろうし、男の人に対して騙しているなんて思うこともないかもしれない。
「そうそう、その意気よ。……はい、髪のセットもできあがりっ」
麻子はヘアアイロンを鏡台に置くと、喝を入れるかのように背中をバンと叩いてきた。
「あ、ありがとう……麻子」
痛さでジンジンと痺れている背中を丸めながら、わたしはお礼を言った。