週末シンデレラ
「そろそろ来てるかなぁ?」
お手洗いで簡単にメイク直しをしてから、わたしたちは一也さんが待つ個室へ戻っていた……が。
「一也……紹介って、どういうことだ?」
個室の前まで来たとき、引き戸の向こうから漏れ聞こえる声に、わたしの身体は固まった。
「あ、来てるみたいだね」
「まっ、待って。麻子っ」
麻子が個室の戸に手をかけたが、わたしはそれを小声で引き止めた。
「……詩織?」
麻子が怪訝な顔をして、こちらを覗き込んでくる。しかし、わたしはそれに答えられないほど焦っていた。
まさか……とは、思うけど。でも……。
わたしが耳をそばだてて中の様子をうかがっていると、男性はもう一度、一也さんにたずねた。
「どういうことだ、と聞いているんだ」
「だ、だからぁ……お前に女の子を紹介しようと……」
「そんなこと、頼んでもいないし、話も聞いてないぞ」
しどろもどろになっている一也さんを、ピシャリと咎める低く冷淡な声。
この声、この怒り方……や、やっぱり――都筑係長?
仕事以外で会いたくもない苦手な都筑係長が頭に浮かび、わたしは背筋に悪寒が走るのを感じた。
まさか、あの係長が紹介なんて受ける? けど、三十歳で大手の情報機器メーカー勤務って、まさしく都筑係長……。
でもでも、一也さんは男性のことをいい人だって……。
自分が作り上げた予想を、的中するのが怖くて無理矢理否定する。
しかし、ここであれこれ考えていても、男性が都筑係長なのか、それとも声や口調が似ている人なのかどうかわからない。
このまま立ち尽くしているわけにもいかないし、一也さんと話している人物を見てみないと……。