週末シンデレラ
「あ、麻子……帰ってもいい?」
「そんなぁ……詩織の気持ちはわかるんだけど、嘘までついて係長を呼び出した彼の面目もあるのよねぇ」
たしかに、帰ろうとしている係長を呼び止めている一也さんを見ていたら、わたしが帰るのは悪いような気がしてくる。
せめて、係長も同じく紹介してもらうためにここへ来ていたら、お互い秘密ということですんだのに。
わたしはどうしたものかと困り果てながら、開けた戸の隙間から係長の姿を確認した。
今日の係長は、眼鏡こそ仕事のときと同じノンフレームのものだけど、襟元のデザインがオシャレな紺色のポロシャツに、ベージュのチノパンを合わせていてラフなスタイル。
どちらも身体にサイズが合っていて、かっこよく着こなしている。
係長の性格を知らなければ、間違いなくときめいていただろう。
だけど、どれほど嫌味な人か知っている今では、どうやってこの場から逃げようか……という考えしか浮かばない。
「もうすぐ俺の彼女も来るからさ。挨拶だけでもしてくれよ」
「……ったく。俺は誰か紹介してほしいなんて一言も言ってないからな」
しぶしぶ座った係長は、一也さんの説得に根負けした様子で大きく息をつく。
そんな係長の肩に、一也さんが励ますように手をおいた。
「なんだよ、征一郎。まだ五年前のこと、引きずってんのか?」
「違う。ただ……今は恋愛とか結婚とか、そういうことに興味がないだけだ」
都筑係長は一也さんの手をうっとうしげに払い、不機嫌そうに眼鏡のブリッジを上げた。