週末シンデレラ


「あ、麻子……帰ってもいい?」
「そんなぁ……詩織の気持ちはわかるんだけど、嘘までついて係長を呼び出した彼の面目もあるのよねぇ」

たしかに、帰ろうとしている係長を呼び止めている一也さんを見ていたら、わたしが帰るのは悪いような気がしてくる。

せめて、係長も同じく紹介してもらうためにここへ来ていたら、お互い秘密ということですんだのに。

わたしはどうしたものかと困り果てながら、開けた戸の隙間から係長の姿を確認した。

今日の係長は、眼鏡こそ仕事のときと同じノンフレームのものだけど、襟元のデザインがオシャレな紺色のポロシャツに、ベージュのチノパンを合わせていてラフなスタイル。

どちらも身体にサイズが合っていて、かっこよく着こなしている。

係長の性格を知らなければ、間違いなくときめいていただろう。

だけど、どれほど嫌味な人か知っている今では、どうやってこの場から逃げようか……という考えしか浮かばない。

「もうすぐ俺の彼女も来るからさ。挨拶だけでもしてくれよ」
「……ったく。俺は誰か紹介してほしいなんて一言も言ってないからな」

しぶしぶ座った係長は、一也さんの説得に根負けした様子で大きく息をつく。

そんな係長の肩に、一也さんが励ますように手をおいた。

「なんだよ、征一郎。まだ五年前のこと、引きずってんのか?」
「違う。ただ……今は恋愛とか結婚とか、そういうことに興味がないだけだ」

都筑係長は一也さんの手をうっとうしげに払い、不機嫌そうに眼鏡のブリッジを上げた。

< 19 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop