週末シンデレラ


ふたりを見送ったあと、係長はわたしのほうへ向き直り、眼鏡のブリッジを上げた。

「ホームまで送ろう」
「はい、ありがとうございます」

……送っていただかなくても結構なんですけど。

その言葉をグッと飲み込み、係長の隣に並んで歩き出した。

居酒屋のときよりも至近距離だというのに、目を合わせても、係長はいまだにわたしが“加藤詩織”であるということに気づかない。

きっと課が違うわたしのことを、普段は意識していないせいだろう。

興味を持たれていないことは女として少しだけ悲しいけれど、今日ばかりは助かったと思う。

そんなことを考えながら歩いていると、踵にズキリと痛みが走った。

そういえば、靴擦れをしていた……。

居酒屋でいるときは靴を脱いでいたので、楽になっていたけれど、またヒールを履いたので痛みがぶり返してきた。

じんじんと痺れるような痛みに、足に力が入らなくなる。蒸し暑さからではなく、痛さから額に汗がにじんだ。

靴擦れのせいで歩く速度が遅くなってしまい、横に並んでいたはずの係長は、いつの間にか前方にいた。

「きみは何番ホームだ?」

係長は案内板の前でこちらを振り返って、たずねてくる。

「あ……一番なので、ここで結構です」
「俺は二番だから……じゃあ、ここで」
「はい。ありがとうございました」

これでやっと係長から解放される。

わたしは今日一番の明るい声でお礼を言い、ホームへ続く階段をおりる……が。

「きゃ……っ」

痛さから感覚をうしなっていた足が、階段を踏みはずしてしまう。


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