聴かせて、天辺の青

前方の信号が黄色から赤に変わる。
前を走っていた和田さん達の車は、そのまま交差点を通過してしまった。微妙なスピードだったから仕方ない。
もう少しアクセルを踏んでたら、ぎりぎり私達も通過できたかもしれない。



「あ、先に行っちゃった……」



つい溜め息とともに言葉が漏れる。
彼が私を見て、くすりと笑う。



「急ぐことない、帰るところは同じなんだから」



彼の手が伸びて、ハンドルを握っている私の左手に重なった。手を避けようと思えば避けることができたと思う。



避けなかったのは、私が願っていたからかもしれない。
そうしてほしいと。



ハンドルから剥がされた手が彼の膝へと連れ去られて、とんっと収まるべき所に収まった。



「来年も、一緒に花見しような」



胸を締め付ける穏やかな声。
目頭がじわり熱くなってくる。
ヤバい……



「うん、その前に水着買いに行かなきゃ」



唇が震えて、声が上摺りそう。



「水着買いに行こうな、海も行ってみよう。一緒に」



彼の力強い声が、揺らいだ胸をさらに刺激する。滲んだ視界の中で、信号が青色に変わるのが見えた。

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