聴かせて、天辺の青

「和田さんたちと温泉に行った時、瑞香の友だちに会ったの覚えてる? 彼女に言われたこと、本当は当たってるんだ」



海棠さんが言ってるのは麻美のこと。麻美が彼に、『ブルーインブルーのサポートメンバー、キーボードのヒロキ』と言った強い口調は簡単に忘れることはできない。



やっぱり、そうだった。
落胆する理由なんて何にもないけれど、できれば遠ざけたかった事実。



「そう、だったんだね……、麻美には言わないから安心して」



言ってしまってから気づいた的外れな答え。
だけど、それ以上に何と言って答えたらいいのか思いつかない。



確かに昔は、ブルーインブルーの歌が好きだった。ライブに行くほど熱狂的なファンではなかったけど、好んで聴いていた。ちょうど学生の頃の思い出とともに流れてくるBGMは決まってブルーインブルー。



やがて月日の流れとともに思い出は薄れて、私の記憶の中から彼らの存在も消えていった。最近では名前も歌も聴かなくなったし、姿も見かけない。



すっかり忘れていたのは事実。何にも感じなくなった自分に対して海棠さんはどう思うのか、気にならないはずない。



「黙っててごめん」



海棠さんは力なく言っただけ。
ぎゅっと私の体を抱きしめた。



< 350 / 437 >

この作品をシェア

pagetop