本音は君が寝てから
「……ケーキ、店舗に置けばどうだ?」
「え?」
「今は喫茶で出してるだけだろ? ここにさ、こう、冷蔵のショーケース置いてさ。お前のケーキは芸術品だ。見せればもっと注文入るだろ。それか、ケーキだけで販売するとか」
「ああ、そんな手もありましたね」
「食べる人間の顔が見たいから喫茶をやりたいって、お前昔俺に言ったよな」
忘れもしない。
相本がホテルを辞めたいといった時の理由だ。
「言いましたね」
「食べる人間だけなら限られるだろう。お前のケーキを見て感動した人間の顔もきっといいもんだと思うぞ」
相本は、俺をマジマジと見るとフッと笑う。
「さすが香坂さん」
「茶化すな」
「本気ですよ。尊敬してます。だけど今はその議論よりも大事なことがあるんじゃないですか」
指で後ろをさした相本の仕草ではっと気づく。
彼女は俺の後ろで、所在なげに俺と相本を見ていた。
いかん。確かに一瞬彼女のことを忘れていた。
「ごめん。行こうか。森宮さん飲める?」
「あ、はい」
「じゃあ、どこか近くで飲みながら話そうか。またな、相本」
「またいつでもどうぞ」
店を出て、再び舞い降りる沈黙の時間。
こんな女性を連れていけるようなお洒落なバーは近くにあったかな。