本音は君が寝てから
「……支払い、今日はいいよ。おごる」
「え? でも」
「いいから。俺の言ったことちょっと考えてみて?」
相本と彼女の視線が絡む。
……何だ?
二人の間に流れる空気が、ただの店主と客のものでは無い気がするのは気のせいか?
俺が遅れてきたから、彼女は一人で一時間半待ってたわけで。
相本はきっと話し相手をしていてくれたのだろう。
その間に、俺よりも相本と親しくなっているのか?
確かに、相本は今独身だ。
すっげぇ美人のやり手奥さんに、愛想をつかされて出て行かれたと聞いている。
いつその話をしても未練たっぷりな感じだったが、でもその離婚騒動ももう7年位前か?
忘れるには十分な時間といえばそうだ。
一気に血が下がっていくような気がした。
やっぱり俺には恋愛は出来ないのか?
もたもたしているうちに、後輩に掻っ攫われるなんて間抜けすぎる。
「香坂さん」
「ん?」
呼ばれて振り向く。
いつの間に立ち止まっていたのだろう。彼女は二メートルほど後ろで立ち尽くしたまま俺をじっと見つめていた。
「……ごめんなさい。私のわがままに付き合わせてしまって。お忙しいのに」
「わがままなんかじゃないよ。それより今日こそ飲みに行こうよ。どんな店がいい?」
「いいんです。無理させるの、申し訳ない」
いつもの折り目正しい態度。
だけどいつもと違って、その態度に不安ばかりが掻きたてられる。