幻影都市の亡霊
「確かに俺の父親という人は生きていたけど……」

 ちらりとウィンレオを見て、眼が合った。そして、一礼した。

「ハルミナさんは亡くなった。だけど、二度と会えないという条件は、同じだったはずなんだろう?」

 一生懸命考えたウェインだが、どこか自分の父や母と、ヨミとハルミナを同じように考えるのが躊躇われるようだった。だがしかし、彼は気高かった母の姿を知っていた。だから、その生き様を伝えたかった。

「お前が話してくれたじゃないか。俺の父親が別れるとき、母さんに言った言葉――『新たな王がたったら迎えに来る』だがそれは……」

 ウェインの言葉に、ユアファがうつむいた。こぼれる涙をぬぐうように、ウィンレオが寄り添った。

「短命な人間に比べて、長命な亡霊だ。母さんが生きているうちに、父さんが迎えに来れる保障はなかったんだろう?」

 ウィンレオがはっとした。ウェインが自分のことを、父さん、と言った。ウェインは二人を見た。

「きっと、母さんも父さんもわかってたんだよ。もう二度と会えることはないかもしれないって」

 ユアファはウィンレオにしがみついて、声を殺して泣いていた。ウェインは決然とした表情を浮かべ、

「だけど母さんは笑ってた」

 ヨミは息を飲んで、ユアファを支えるウィンレオを見た。彼の知っている王も、笑っていた。

「あまり、話をすることはなかったけど、父さんの話をするとき、いつも淋しそうに笑った後、愛しい者を懐かしむように、晴れやかに笑うんだ。『あんたの父さんは、とても強い人だったよ』って。そんな母さんが好きだった。一番、綺麗に見えたんだ。俺は、お前の知っている父さんを知らない。だけど……俺の父親は、お前みたいにずっと悩んでたのか?笑ってなかったのか?」

 涙が込み上げたヨミに、そっとツキミが手を伸ばしていた。ウィンレオも、初めて見た息子に感銘を受けていた。
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