幻影都市の亡霊
「お母様が、望んだことです。お兄様、わたくし早くその『時』が来ると良いと思ってますの。本当は、お兄様が次に王様になるんだと思っていましたわ。わたくし、そうだったら良いなと思っていました。そうすれば時がくればすぐに、お父様は幸せになれました。だけど、新しい王という方は人間にいると言うではないですか。それでは……時間がかかってしまうのでは……」

 淋しそうにうつむいたラムの肩を、コロテスは抱いた。

「ラム、母上の願い、俺も早く叶うといいと思っている。だが、まだ時間がかかるかもしれない。そうしたら、俺達が父上を支えてあげればいい。俺達が及ばないまでも、少しでも父上に幸せだと感じさせてあげればいい。俺達は、あの方の子供だ。それだけしか、いやそれができるのは俺達なんだよ」

 ラムは顔を上げて兄を見ると、

「はい」

 笑顔で肯いた。

 そのままラムはおやすみのあいさつをすると、自分の部屋へと入って行った。それを見送っても、コロテスはしばらくその場に留まっていた。

「……母上の望んだ父上の幸せ――俺にそれができればよかったのに……っ」

 コロテスはうつむいた。

「俺は、両親を幸せにすらできないのだろうか……」

















< 54 / 168 >

この作品をシェア

pagetop