幻影都市の亡霊
「あいつ、乗り越えられると良いな」
「おい、ウィンレオ」
「なんだ?」

 突然話を変えた親友に、ウィンレオは顔を向けた。そこには偉く真摯な表情を浮かべた青い亡霊の顔があって、

「ユークラフはお前に好意を持っている」
「…………」

 ウィンレオはその紫の眼をぱちくりさせ、親友の言葉を待った。

「そしてお前も、妹に悪い感情は抱いていない。むしろ好意を抱いている。違うか?」

 ウィンレオは困ったように、

「違わないが……それがどうした?」
「それなら話が早い。あいつをお前の妻にしろ」
「はっ?」

 唐突な言葉にウィンレオは目を剥いた。あまりにもこの亡霊らしくない言い草だった。

「どうした、オーク?」
「私以外にもすぐ近くに心を安らげられる場所を、作っても良いんじゃないか? あれは兄の俺が言うのもなんだが、できた娘だ。幸せになってもらいたい。そして、お前にもだ。お前は今、愛する女性が必要だ。力が傾いている」

 正直この言葉には驚いたウィンレオだった。力が傾いているなどと言われては驚くほかない。

「傾いているか?」
「ああ。結婚した辺りからだ。良くない気がちらほら見える。見ていて心配だ」

 ウィンレオはそうか、と肯いた上で、だがしかし、ユークラフを妻にすることには首を縦に振らなかった。
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