いとしいこどもたちに祝福を【後編】
『私にとっては生みの母も育ての母も、どちらも比べ難い程掛け替えのない母ですよ…!その大切な育ての母が生んでくれたのが、私のたった一人の可愛い弟です…!!』

『なっ…京…!?』

(兄さん?!)

京が占部に対し此処まで言ってくれるのは本当に嬉しいが――今まで比較的和やかだった場の空気が一変し不穏な気配が漂い始める。

それこそ、普段は冷静な兄らしくない感情的な言動だった。

『…まあ占部殿、そう言うな。儂も霊奈殿の現奥方と次男坊の美貌は甚(いたく)く気に入っておるのだ。優れた年長者が立場の弱い弟妹を気遣うのも、至極当然。致し方あるまい』

『っ…輝琉様がそう仰るなら』

正直、男性から容姿を誉められたところで全く嬉しくないのだが占部を黙らせてくれたことには感謝したい。

母の容貌に心惹かれている男性は架々見以外にも非常に多いため、輝琉もその一人なのだろう。

『京殿も、すまぬのう。占部殿もまたそなたの母の兄であるからの、血縁である妹御やそなたが愛おしゅうて仕方ないようなのだ。どうか、気を悪くせんでおくれ』

『…いえ、お見苦しいところを晒してしまい申し訳ございません……』

我に返った京の表情は意気消沈というより、失態をしでかしてしまったという焦りの色が見て取れた。

占部から挑発されたとはいえ、取り乱してその場を輝琉に諌めて貰うだなんて――

『して…話は変わるがのう、京殿。その弟御にも例の話は伝えておいてくれたかの』

(……例の、話?)

『…その件は父が以前お断り致した筈です。なので弟には、何も』

(父さんが、断った?…何を?)

『左様か。ならば今一度、そなたに頼もうかの』
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