いとしいこどもたちに祝福を【後編】
――春雷で、戦争を起こさせないためには。

(俺が黎明に行かなければならない…っ?)

『さすれば我が黎明と春雷の国同士の繋がりも、より親密で強固なものとなるであろう?春雷からして見ても何ら不都合はないと思うがの』

成程、要するに黎明が春雷を従えさせるための人質が欲しいのか。

ざわり、ざわりと悪寒か憤りかも区別の付かぬ感情が腹の底から湧き上がる。

『聞けば先日行われた輝琉様のご息女を含む令嬢方との見合いの席を、奴は途中で抜け出したそうではないか。折角の機会をくだされた輝琉様に対して無礼を働いたにも関わらず、奴はこの場に現れもせず…』

『それはっ…』

ここぞとばかりに責め立てる占部の追及に、京は反論し掛けたが口籠る。

兄は真都がしでかしたことを言おうとして、また不毛な言い争いになるのを避けたのだろう。

『過ぎたことはもう良いのだよ、寧ろ他国の娘御と親密になる前で幸いだった。既に他の誰かと恋仲となれば、弟御とその相手との仲を引き裂かねばならぬ。儂も他国との余計な問題を起こすのは避けたい…それでは弟御も不憫だからのう』

既に輝琉は、自分が黎明に行くことを前提とした口振りだ。

『恐れ入ります、輝琉様…ご息女との縁談については私めにお受けさせて頂く訳には参りませんか』

(っ!!兄さん、何言ってっ…)

『おお、おお。わしとしてはそなたでも全く申し分ないのだかのう。飽くまで今回望んでおるのは国同士の和睦の証となる“入り婿”なのだよ。跡取りの座を弟御に譲るというのならば話は別だが』

『いえっ…ただ、弟は政略の問題とは無縁に育って参りましたのであまりこういったことには…』

『本人の意向を尊重出来ぬ婚姻など、名家の血筋に生まれた子女ならば珍しくもあるまい。そなたの父母がそうであったようにのう』

京が辛うじて取り繕った笑顔を真っ向から打ちのめすように、輝琉はにこやかな表情と猫撫で声で言葉を被せてきた。

『……仰る通り、ですが…』
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