三十路で初恋、仕切り直します。
3
泰菜がしていると折角の指輪が霞んでしまうと言われない様に。
法資がくれた指輪に相応しいような、ひいては法資の隣に並ぶに相応しいような、そんな女になりたいと指輪を見るたび思うのだ。
「折角法資がわたしにって選んでくれたんだもん。お嫁に行くまでにもうちょっと身なりに気を遣ったり、もっと家事も出来るようになって、法資がくれたダイヤが似合ういい女にならないとなぁって改めて思ったわけです」
『……おまえなあ』
決意を口にしたのに、法資はなぜか頭を抱えてしまう。なにかそんなにおかしなことを言ってしまったのかと思えば。
『手を出せないのに、俺の前でそういう可愛いこと言うなよ』
本気で忌々しげに言われて、馬鹿みたいに恥ずかしくなってくる。
ときどき法資にこうして恋人っぽい話を振られることがあるが、そのたびに沈黙してしまう。まだ甘い雰囲気に慣れなくて、どぎまぎしてしまうのだ。
『あーあ。早くおまえを抱きたいな』
泰菜の戸惑いを見抜いているくせに、こういうときに限って法資は甘い言葉を重ねてくる。しかも余裕の顔で。
「……何言ってるのよ」
『毎晩の独り寝が寂しいもんでな』
さらりとそんなことを言って笑いかけてくる法資の顔が、ときどきほんとに憎らしく思えてしまう。
わたしの方がよっぽどさびしいです、などとは言えずに照れ隠しに法資を睨みつけてしまう。どうせ真っ赤になっている顔は画面越しに見られているというのに、それでも素直な言葉を言うことが出来ない。
--------意地っ張りで照れてばかりで、それを隠すために突っぱねた言い方をする、かわいくない女。
分かっているのに、自分のそういう性格を矯正出来ずにいるところが歯痒い。でも法資は泰菜の内心まですべて理解しているような顔で、睨んでくる泰菜を見てふっとやさしく笑う。
『さっさと休みになりゃいいのにな』
法資の言う年末年始の休みまであと一ヶ月ほどだ。心から待ち遠しく思っていることが察せられる法資の言葉に、思わず「うん」と頷いていた。
『そのときに、もっと具体的におまえがこっちに来る準備とか、そういう話が出来るといいな』
「……そうだね」
会えない時間は寂しいけれど、その約束のときを思えばすこし気持ちが弾んでくる。
『……泰菜』
「なあに?」
『おまえやっと普通に笑ったな』
法資に唐突に指摘されて戸惑っていると、『おまえさっきから無理してるみたいだったから』と言われる。
どうも泰菜が落ち込んでいたことに初めから気付いていたらしい。心配掛けてしまっているのにこれ以上隠しておくこともないかと、泰菜は苦笑して言った。
「……ばれてたか。実はね、ちょっと落ち込むことあって」