三十路で初恋、仕切り直します。

4


法資は黙って話の続きを促してくる。

「……最近ね、わたしが大事にしてたダイヤのネックレス、なくしちゃったんだ」


口にしたのは、この数日間自分の胸を塞いでいたことだった。


「それでちょっと本気でへこんでたんだ。けど、法資からあんな素敵な指輪もらったんだもん。ちゃんと片付けなかった自分が悪いんだし、いつまでもくよくよしてられないよね」




大事にしていたというのは、縦に大きさの違うダイヤが三つ並んだネックレスだった。それが見当たらないと気付いたのは先週のこと。

いつも外した後は自室の専用ケースの中か、祖母が使っていた鏡台の上に置いておくのに、どちらにもネックレスがなかった。どうせすぐに見つかるだろうと大して焦りもせずにいたけれど、それから何日経っても思いつく限り洗面所も鞄の中もすべて探してみても、ネックレスは出てこないままだ。


なくしたのが雑貨屋さんなどで買ったアクセサリーならばまだしも、よりにもよってボーナス一回分をまるまる注ぎ込んで「一生ものにしよう」と心に決めて買ったものだったので、思い当たる場所をくまなく探してもネックレスが出てこなかったことに茫然自失としていた。それこそこの一週間、仕事の間もなくなったネックレスのことを思って憂鬱になっていたくらいだ。





「ちゃんと決めた場所に片付けておかなかったわたしがいけないんだし、もうネックレスのことなんて忘れないとね。でもまた片付けたら出てくるかもしれないって思うと、なかなかふっきれなくて」
『……そのネックレスって、』

「うん?えっとほら、法資と『桃庵』で会ったときにわたしがしてたのだけど……」


しかもその後、ラブホテルで過ごした後に法資に付けてもらったものだ。

自分にとっては法資にネックレスを付けてもらったことはとてもどきどきした印象的なことだったけど、法資には些細なこと過ぎて記憶には残っていないだろうなと思う。


「まあそんなこと言われても法資は覚えてないよね」
『デビアスのトリロジー』


画面向こうの法資がぼそっと呟く。「えっ?」と訊き返すと法資は同じ言葉を繰り返す。


『だから。それってデビアスのトリロジーっていうネックレスのことなんだろ』
「そうそう!それだよ、それ………って…どうしたの?」


なんで法資がそのネックレスを購入したジュエラーも商品名も把握しているんだと疑問に思っていると、画面の中で法資がおもむろに立ち上がり、画面から姿を消す。

どうしたのかしらと思いながら、法資が戻ってくるのを待つ合間にかたわらに置いてあるポットからマグカップにお湯を足す。そうしながら、今度お揃いのマグカップでも買っておこうかなと思いつく。

離れて暮らしていても、画面越しにおそろいのカップを使っているのが見えたらすこしうれしい気持ちになれそうだ。年末に法資が帰ってきたときに渡せるように、明日は久し振りに名古屋まで足を伸ばしてカップを探しに行こうかなと思っていると法資が再び画面の中に現れた。


『おい』


その手に何かがある。


『おまえが言ってるのって、これか』


法資はそういって、右手を突き出してくる。画面に大きく映し出されたそれは、まぎれもなく泰菜のお気に入りの三連ダイヤのそれだった。


「ああ!それ、それそれ!」





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