三十路で初恋、仕切り直します。
5
思わぬ場所からではあったけれど、探し物が見つかった安堵感で思わず画面に顔を近付けながら笑顔になる。
「なぁんだ、法資の荷物に紛れちゃってただけか。それじゃあ見付からなかったわけだ。でもよかった、見付かって」
『ああ、よかったな』
うれしさのあまり、法資の声がわずかに冷たくなったことに気付かなかった。
「うん、ほんとによかった。うれしいな。なくしたままだったらどうしようかと思ってた」
『……なくたって、おまえには指輪やったからいいだろ』
不機嫌そうな顔でいうその言葉が、いやに刺々しい。
「法資?……どうしたの?なんか怒ってる?」
法資は「別に」と言った後、それでも言わずにはいられないとでも言うように吐き捨てた。
『この馬鹿。……いつまでもこんなもん、後生大事に取っておいてんじゃねぇよ』
いかにも腹立たしげに、法資は自分の手の中のダイヤを睨み付ける。
『たしかにこれもそれなりにいいモンみたいだけどな。こっちはこの三連の軽く倍以上はする指輪用意してやったんだから、未練がましくいつまでもこんなもん持ってんじゃねぇよ』
「みれんがましく?」
『これ、前の男に貰ったもんなんだろ』
三連のダイヤは、元彼のオサムから贈られたものではなく、そのオサムに振られたときに自棄くそでボーナス全額注ぎ込んで自分で買ったものだ。
なんでそんなおかしな勘違いをしているのかよくよく話を聞いてみると。
法資は泰菜が元彼から誕生日にネックレスを贈られたという話を覚えていたらしい。そして元彼が「泰菜のために奮発した」と言っていたことも記憶に留めていたようだった。
奮発したとは言っても、実際には浮気相手の娘に贈ったものより泰菜に贈ったものの方が廉価なネックレスだったわけだが、どうも法資はそのネックレスが泰菜が大事にしていた三連ダイヤのネックレスだと勘違いしたらしい。
「だから違うの、それは本当に自分で買ったやつで」
『嘘吐くな。そんな見え透いた嘘付いてまで手元に置いておきたいのか?そんなに大事なもんなのかよ」
「大事ですとも。それいくらしたと思ってるのよ!」
『おまえそれ以上未練たらしいこと言ったら、今すぐこれトイレに流すぞ』
「や、やめてってば!」
画面の中の冗談とも思えない法資の目を見て、無駄だと分かっているのに思わず腰を浮かせて飛び掛りそうになる。
「未練なんてないよっ、もう全然ない!そんなのあったら法資と付き合ってないって」
『はっ。未練がないのは本当みたいだけどな。おまえのことコケにしたような男から贈られたもんでも、高価なもんだと処分するのがそんなに惜しいのかよ?』
「じゃなくて!本当にそれはわたしが買ったやつです!どうして信じてくれないのよっ」
ばん、と卓袱台を叩くと、そこに本当に法資がいるかのように画面に詰め寄った。
「オサムさんにはたしかにネックレス貰いました!けど、それはデビアスじゃなくてティファニーのやつです!しかも石の付いてないシンプルなシルバーのやつですっ」
たぶんウェブカメラに近付きすぎて法資には自分の顔など見えてないだろうけど、画面の中の法資を思いっきり睨みついて言っていた。
「だからわたし、ダイヤ貰うの、法資からが初めてです!」