三十路で初恋、仕切り直します。

6

泰菜の言い分を聞き届けた法資が、間抜けにぽかんと口を開ける。


その法資に似つかわしくない、あまりに気の抜けきった馬鹿みたいな表情に、怒っていた泰菜も毒気を抜かれてしまう。

あやく笑い出しそうになるのをどうにか堪えていると、法資はとても決まり悪げにそっぽを向いて誤魔化すように手元のマグカップに口をつけ、『そうか』とちいさな声で呟いた。

ポーカーフェイスを気取っているようだけど、隠すことが出来ない耳が赤く染まっていた。おそらく今、画面の中から消えてしまいたいぐらい自分の勘違いを恥ずかしく思っているのだろう。

それがわかっていたから、からかってやりたい気持ちをぐっと堪えて、何気ない口ぶりで話を切り出した。



「ねえ。それにしても、指輪、わたしが買ったそのネックレスの軽く倍以上って、やっぱわたしすごいの買ってもらっちゃったんじゃない」
『……前の男がそれなりのもん寄越したってのに、こっちがそれ以上のもん出さないでどうすんだよ』


画面の中の法資はぶすっとした顔のままだ。けれどちらりと正面に視線を寄越すと、『って思っただけの話だ。……勘違いして悪かったな』と怒ったような口調を崩さずに謝ってきた。

どうやら生来の負けず嫌いが、元彼への対抗心として出てしまっていたらしい。




「いいよもう。だって法資が勘違いしてくれたおかげで、わたしすごく立派なダイヤをもらえちゃったんだから」

笑いながらむくれている法資に話しかける。

「それだってそんな安物じゃないけど、法資がくれた指輪、とても自分じゃ買えないくらい立派で素敵だもん」
『そこまでありがたがられるほどのもんじゃねぇよ。ハリーウィストンとかに比べたら安いくらいだしな』
「……ハリーウィストンってなに?」

真顔で訊いて、笑われてしまう。

『知らないならいい』
「……ごめんね、わたしおしゃれなブランドとか全然知らなくて」
『別に。おまえのそういうとこ、嫌いじゃない』




それから聞いた話。

法資は指輪を購入することになった金曜日、『元彼から贈られた』と思い込んでいた三連ダイヤの、だいたいの価格を調べるために泰菜の部屋からネックレスを拝借し、それを持って名古屋のデパートまで出掛けたらしい。

そこでどうも三連ダイヤのネックレスが有名なジュエラーの、しかもクオリティーもまずまずの高価なものらしいと知って、妙な対抗意識が生まれてしまったようだ。

当初は三連ダイヤに見劣りしないネックレスを泰菜に買うつもりが、たまたま覗いた店で店員が「なかなか店舗に入ることのないかなりグレードのいいダイヤがある」と指輪を見せられ、どうせいいものならネックレスより指輪の方が泰菜が喜ぶだろうと購入をその場で決断してしまったという。





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