三十路で初恋、仕切り直します。


旧正月を終えたばかりの2月初旬。


一年中蒸し暑いシンガポールでは、雨季と乾季が入れ替わる境目の季節を迎えていた。日本ではいよいよ本格的に寒くなるという時期だが、シンガポールでは連日最高気温が30度を越す夏のような暑さが続く。

じりじりと肌を焦がす日差しの中、シンガポール一の繁華街にあるアイオン・オーチャードで買ったものを手に提げて最寄駅まで帰ってくると、先程までの晴天とはうって変わって空には鈍色の重たい雲がたちこめていた。



---------ひと雨くるな。



早足で棲家にしているアパートメントに向かうも、辿りつく前に突然それははじまる。スコールだ。じめじめと日本の梅雨のような日が続く雨季とは違い、乾季の雨は唐突に、それも激しく降る。まさに「バケツをひっくり返したような」猛烈な雨に打たれて住まいにたどり着く頃には、着ていたものはポロシャツから靴下まで、絞れるくらいにびしょ濡れになっていた。


玄関先で適当に脱ぎ捨てて下着一枚にタオルを引っ掛けてリビングへ入ると、真っ先にスリープモードになっていたパソコンを揺り動かした。スカイプの着信履歴を調べてみると留守にしていた間、それもちょうど家を出たばかりの時間に一度着信があったようだ。


すぐに折り返しスカイプで電話を掛けてみるが、しばらくコールしても出ない。自分と同じようにどこかへ出掛けたのか。それともまだ怒っているのか。


一方的に切られた3日前の電話を思い浮かべていると、不意にコールが止み、画面いっぱいに見たかったその顔が映りこむ。



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