三十路で初恋、仕切り直します。

誰と比べているんだろうと疑心暗鬼になる泰菜の前に、拍子抜けするくらい次々に浮気の証拠が出てきた。


今思えばあれはわざと気付かせるために、うっかりを装ってメールボックスを開いたままの携帯が置いてあったり、泰菜が行ったこともないラブホテルのスタンプカードや、明らかに彼が飲むはずもない美容のコラーゲンドリンクが彼の部屋の目に付く場所に置いてあったのだろう。


あまりに「自分以外の女」の存在を臭わす物証が目につくから問い詰めると、彼はあっさり浮気を認め、怒った泰菜が別れを切り出すとそれもあっさり受け入れた。


「最初はさ、引き止める価値もない女なんだってことがショックだったけど、そもそも別れをわたしの方から切り出すように仕向けてたのかって気付いたら……振る価値すらなかったのかって思って……」


目尻からつうっと涙がこぼれてしまうから、グラスの冷酒を煽るとぐいっと袖口で目元を拭った。

好きだった気持ちの名残なのか、ほのかに結婚を意識した相手への未練なのか、裏切られた悔しさなのか、涙の理由は自分でももうよく分からない。



「最低よね。しかも相手、同じ職場の、わたしが新人研修担当した娘だったの。信じられないでしょ?こんな手近なとこで二股かよって呆れちゃった」



自虐的になる泰菜に、法資は何も言わずにいてくれる。変に慰めるような言葉を掛けられていたらきっと「ごちそうさま」をしてこの場からすぐに去っていた。


でも。


昔から法資は泰菜に程よく無関心で、程よい距離を保っていてくれた。





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