三十路で初恋、仕切り直します。
言われて自分の姿を顧みる。ボクサーパンツにタオルを引っ掛けただけで、たしかに随分な姿だなと思う。不意打ちでこんな姿を見せられた泰菜は、なにもそこまでと案じたくなるほど耳も首元も真っ赤になる。
男の半裸姿くらいいままで見たことがなかったわけでもあるまいに、いい歳して何をそんなに困ったような反応をしてるんだと思う。そう思う一方で30過ぎても物慣れぬその初な反応をいいなとも思ってしまう。
「よう」
『……よう、じゃなくてさ』
泰菜はちらりと正面に視線を向けて、でもまたすぐに目のやり場に困ったように横を向いた。
『お風呂でも入ってたの?……早く何か着てよ』
「いや。ちょっと出先で雨に降られてな」
『……雨?』
「こっちはゲリラ豪雨みたいのが降る季節でな」
折角顔を見られるテレビ電話で通話しているというのに、こちらに向いてくれないままでは面白くないので、寝室に置いてある部屋着を手にして、それを引っ掛けながらパソコンのあるリビングまで戻ってくる。
リビングの腰窓の外ではシンガポールの街並みに光が差しはじめ、降り出したときと同じくらい唐突に雨があがろうとしていた。