三十路で初恋、仕切り直します。
「……し、しにたい……!!」
不自由するはずのない法資がわざわざ自分なんかに手を出すわけがないから、やはり法資が言うとおり自分から誘いをかけたのだろう。
武器になるような巨乳も色っぽさも何も持ち合わせていないクセに法資を誘惑しただなんて、酔っていたとはいえいったい自分はどれだけ命知らずなのだろうかと、思わず発育不全のままの成長を止めた自分の胸を見てしまう。
「死にたいってなんだよ、失礼な女だな。この世の終わりみたいな顔しやがって」
「……お、おわ、おわりだよ、おわった。自分に失望だよ……」
「そんな悲観すんなよ。俺だって何もおまえのことこのままヤり捨てようなんて考えは」
「っていうか。---------ば、ばっかじゃないの!なんで酔っ払いに迫られて手出しちゃうわけ、法資は。法資ともあろう男がなんでわたしなんかに手を出しちゃうのよっ」
「わたしなんか、ってなんだよ」
法資はむっとしたように顔を歪める。
「だってそうじゃない。法資のことはこれでも自慢の幼馴染だと思ってるんだから。もっとお高いところで澄ましててくれなきゃ。なのにこんな手近でちょろい女にうっかり手を出しちゃうなんて。本当に馬鹿よ、もっと選り好みしなさいよ!」
「……本当、おまえって昔から変わらないな」
声以上に冷めきったまなざしを向けられる。
「そうやって俺を持ち上げるようなことを言って、おまえ実は俺に興味ないだろ」
「え?」
「俺に何言われても……昨日だって独身女が惨めだなんだとか、おまえの歳の女に言ったら激怒されるか泣かれるかするようなこといってもおまえ怒るわけでも気分悪くしたような顔するでもなかったし」
「それは法資が毒舌だって知ってるし、事実でもあるわけだし……」
「違うだろ。おまえは俺のこと眼中にないから俺に何言われても気にならないんだろ?……今も昔もな」
--------眼中にないのは法資のほうでしょう。
法資の冴え冴えとした目を見て、思わずその反論の言葉を飲み込んだ。
苦いものを噛み潰したような顔で苛立つ法資の目にはいつになく真剣な気色が滲んでいて、うかつに言葉を掛けられなかった。今ここで下手なことを言ってしまったら。
自分と法資の間にあるいろんなものがぶち壊れていきそうだった。