三十路で初恋、仕切り直します。

「------そういやもうじき11時だぞ」


しばらく無言で見詰め合った後、先に目を逸らしたのは法資だった。裕美の『結婚報告会』は、フレンチレストランで12時から開かれる予定だ。


「うそ、もうそんな時間!?」
「約束は正午だろ。さっさとシャワー浴びて着替えねぇと遅れるぞ」
「う、うん、そうだね。じゃあお先にシャワーを……」


慌ててベッドから下りて、全裸の自分に気付いて恥ずかしくなるけれどどうせ昨日見られてしまったんだし、今更恥ずかしがるような乙女な年齢でもないわ、と自分を奮い立たせて法資に背中を向けてバスルームに向かう。

法資はそんな内心を読んだかのように、「おまえ少しデカいけど尻の形もイイな」とからかってきた。顔を見なくても意地悪な顔をしているのが分かってしまう。



「見たら殺すから」



いかにもラブホテルらしくガラス張りでベッドから丸見えのバスルームに入りながらそんな脅し文句を口にするけれど、ベッドに横たわる法資はガラス越しにシャワーを浴びる泰菜の姿をにやにやと眺めてくる。

おまけにどこから見つけ出したのか、片方の手に昨日泰菜が穿いていた下着を手にして、驚く泰菜の目の前で指に引っかけてくるくる回してふざけだす。


「ちょっと何してんのよ、ぱんつ返してよっ」


バスタオルを巻いて飛び出すと、いたずら小僧そのものの顔した法資は取り返そうと飛びついてくる泰菜をいなすように何度かかわした後、飼い猫をじゃらして満足したような顔で泰菜の手に返した。


「意外と色っぽいの穿いてんだな。そんなん穿いてて現場の親父ども盛らせるなよ」
「……作業着汗かくと透けちゃうから、普段は色もラインも透けにくい地味なのしか穿いてませんよ」

「じゃあラッキーだったな」
「ラッキーって?」

「いいからおまえは早く着替えろ」



タオルを巻いただけの泰菜の体から目を逸らしながら、法資が備え付けのハンガーラックを指差す。


そこには泰菜が紙袋に入れて持参した着替えやコートが、きちんとハンガーに下げられ掛かっていた。どうやら法資は意外にマメな性質らしい。


「……ありがとう。持ってきた服、入れッぱなしのままだったらシワシワになってた」
「ん」





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