三十路で初恋、仕切り直します。
のぼせそうになるくらいたっぷりお湯につかってから出ると、待ち合わせの場所にはすでに法資の姿があった。
「なにあれ」
ずらりとマッサージチェアが10台以上並んだ『リフレッシュルーム』の隅の方でチェアに座る法資を見付けた。館内着である浴衣を着て、蕩けたような顔つきで目をつむりマッサージチェアに身を委ねている。泰菜が近寄ると気配に気付いたのかうっすら目を開けた。
「…泰菜か……」
「ほ、法資似合わない……っ!」
思わず噴出してしまう。
高いスポーツカーを乗り回す一流企業のエリート様の姿にしてはあまりにも庶民的で、おまけにおじさま好みのマッサージチェアを有難そうに堪能している姿は、イケメンな彼にはあまりにも似つかわしくなくて、見ているだけで笑いがこみ上げてきてしまう。
「写メっておきたい……!に、似合わなすぎて笑えるっ……!!」
肩を震わせる泰菜にいささかむっとした顔になった法資は、懐から出した財布から小銭を取り出して隣のマッサージチェアの硬貨投入口に放り込んだ。
「馬鹿にしやがって。おまえも座ってみろ」
折角おごってもらったので、言われたままに座ってみる。
「うわっなんかぐりぐりくる」
「気に入らなかったらモード選べ。叩きとか揉みとか押しとか、強め弱めとか」
何度も選択し直してモードを試してみると、自分好みのマッサージになってきた。
「あー。この腰から背中までぐいっと押し上げられるの、いい」
「見た目ほど悪いもんじゃねぇだろ」
ほらみろとばかりに言ってくる法資のむきになった顔を、なんだか妙にやわらかい気分で見ている自分に気付く。
「なんだよ」
「べつに?」
たのしいことがあったわけでも、うれしいことがおきたわけでもないのに、自然と口元が笑みの形になる。
「おまえ笑いすぎなんだよ」
笑う泰菜を見てまだ馬鹿にされているとでも思ったのか、法資はむくれたような口調で言ってくる。
「だいたい今のおまえだって見れた顔じゃないだろ」
「……すっぴんで悪かったわね」
眉だけでも描いておくべきかと悩んだけれど、どうせ一緒にいるのは法資だしまあいいかと開き直ってしまったのだ。また「女を捨ててる」だとかあれこれ貶されると思っていたのに、法資の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「べつに悪かねぇよ」
再びマッサージチェアにどっしり体を預けながら法資が言ってきた。