三十路で初恋、仕切り直します。
「たーちゃん?……あれ、それ花束?」
顔に似合わず、祖父の武弘はこの愛らしいスイートピーが好きだった。
法資はそのことで『乙女かよ、こんなんじいちゃんに似合わねぇよ』と笑いながら武弘を揶揄したことがあった。けれど実はその花が武弘と亡くなった祖母・きぬ子との思い出の花だと知ると、法資は武弘の家を訪れるときは必ずスイートピーの花束を用意して、混み合う帰省時期の電車では持ち歩きに邪魔になりがちなそれに文句も言わず、その腕にしっかり抱え持って武弘に届けた。
「これ誰から?よかったねぇ、この花、おじいちゃんにお供え出来るじゃん」
自分の内側にあるどこだかも分からない場所がひどく熱く痛む。
法資は泰菜だけでなく泰菜の周りにいるひとも大切にする、と言った弥生の言葉が不意に耳を過ぎる。
「……たーちゃん?」
今朝出勤するとき玄関にはまだ何も置いてなかった。たぶん出勤する泰菜と入れ違いになったのだろう。法資は静岡を散策して温泉に入りながら帰ると言っていたから、その帰りにこちらに寄ったのだと思う。
わざわざ慣れない土地で花屋を探して。祖父が毎年花開くのを楽しみにしていた庭の花木と同じ匂いのするお線香まで用意して。
「もう……ほんとうにやることに卒がないなぁ……」
言いながら言葉がどんどん情けなく崩れていく。
「……法資ってば、こんな……こんな……」
その名前を口にした途端、堪えきれないものが胸の深い場所から溢れてきて、それは嗚咽となって泰菜の口から漏れていく。込み上げてくる熱い感情は、涙になって次から次からこぼれていく。
---------法資に会いたい。
法資が自分のことをどう思っていてもいい。都合がいいだけの相手だと思われているのだとしてもいい。なりふり構わない素直な心で思う。
ただ、法資に会いたいと。