三十路で初恋、仕切り直します。
「法資、怒ってるの?酔って機嫌が悪いだけ?」
「……酔ってないって言ってるだろ。あの馬鹿からおまえと『よりを戻す』って聞かされて、折角のいい気分を台無しにされたんだよ。……人が折角うまい地酒飲ませる店見つけたってのに」
法資が愚痴のようなことを言い出す。津田が法資になにを言ったのか想像しか出来ないけれど、復縁を臭わすようなことをわざわざ法資に伝えただなんて、津田のやっかいな悪戯心には思わず笑みがこぼれてしまう。
「津田くんになんてからかわれたのか知らないけど、全部ただの嘘よ?わたしに不倫願望なんてないんだから」
「そんなの知ってる。あの馬鹿にもおまえはそんな安い女じゃないって言ってやった。けどな、そしたらあの馬鹿、これみよがしにたのしそうに飲んでる写メなんて送ってきやがって」
「え。……やだ」
田子と山田も一緒だった飲み会の席で、津田に写メを一枚取られていた。まさか法資に送りつけられるとは思いもせず、レンズを向けられた泰菜もふざけてウーロン茶の入ったジョッキと焼き鳥の串を持ったままわざとらしく笑顔を作ってピースしていた。
撮られたものは確認しなかったけれど、かなりアホっぽい画になっていたと思われる。
「あれ見たの?」
「見た」
あんな馬鹿みたいな顔なんてしなければよかったと呪わしい気持ちになってくる。なんでわざわざ法資に見せたりしたのかと津田に恨みがましい気持ちまで沸いてきた。
「それだけじゃねぇよ。あの男、今から二人きりでお前の家に行くところだなんて、ご丁寧に位置情報までメールに添付して送ってきやがった」
ありもしない自分の不貞をでっち上げるような真似をして、津田はいったい何がしたかったのだろうか。訳のわからなさにいっそおかしくなってくる。
「もう!津田くん、何アピールよ。わたしと津田くんがいまさらアヤシイ仲になんてなるわけないのに。冗談にしても随分手の込んだいたずら…………痛っ!」
笑い飛ばそうとする泰菜の脛に、強烈な一撃が加えられる。
「ちょっと痛いよ、法資ッ」
穿いていたジーパン越しに、脛をおもいっきり抓られた。
「……ったくおまえは。昔から俺をムカつかせることにかけてはほんと天才的だな」
「むかつかせる?」
鸚鵡返しに言葉を返す泰菜に、法資はいっそ冷淡なくらいの口ぶりで吐き捨てた。
「そうだよ。俺はな、ガキの頃からおまえのことがムカついてムカついてしょうがなかったんだよ」