三十路で初恋、仕切り直します。
「子供の頃から?」
今はともかく、幼い頃は仲が良かったと思っていたのに。
「身に覚えがないのか?気付いてなかったなんて、さすが自分のことには人一倍鈍感で愚図なおまえらしいな」
「……そんな……」
がんばってみようと思った途端にこの言葉。折角臆病者の胸の中で育った決意はたやすく手折られてしまう。
「……法資はわたしのこと、そんなずっと前から嫌いだったの……?」
「嫌い、か」ちいさく呟いてから法資ははっきりと言った。「確かに俺はおまえが嫌いだったのかもな」
あっさりと肯定されてしまい、目の前が真っ暗になる。なんで自分から止めを刺されるようなことを訊いてしまったのだろう。
一生汚されることがないと思っていた小さい頃の楽しくて大切な思い出まで、法資の言葉で無残に砕け散っていく。
愕然とする泰菜に、法資は清々したとばかりに言い募ってくる。
「ガキの頃は嫌いって程度だ。けどな、高校ン時はいっそ憎たらしくてたまらなかった。大学進学してやっとおまえと離れられたときはほっとしたな」
いっそ笑い飛ばしたくなるくらい容赦のない言いよう。あまりにも痛みが強いと痛覚は麻痺して涙すら出てこないようだ。
「……そっか」
失恋するにしても、もっとましな失恋の仕方はあったかもしれない。あの日別れたままだったら、こんなにも痛い思いをしなくて済んだかもしれない。
それでも。
やっぱり最後にもういちど会えてよかったなどと思うのは、惚れたほうが負けという境地にいる所為なのだろうか。
「そうだったんだ……」
長いこと沈黙していたような、一瞬の合間だったような、そんな時間の後で泰菜は自分を奮い立たせて口を開いた。もう子供じゃないから手が震えたりしない。それでも「ごめんね」と言ったとき胸の中は痛みで弾けてしまいそうだった。
「ほんとにごめん。わたし馬鹿だから分からなかったけど、何か法資の気に障るようなことしてたんだね。嫌な思いさせちゃってたのに今日もおじいちゃんにお供え、わざわざ持ってきてくれてありがとう」
精一杯の強がりで笑ってみせたのに、法資はますます苛立ちを深めた顔で吐き捨てる。
「……そういうところだよ」
法資は歯噛みする。
「おまえのそういうところ。……そうやって俺が何言おうが何しようが『あなたのことなんてまるで気になりません』って顔するとこ。そういうところがムカつくんだよ。馬鹿にしやがって」
「馬鹿にって……わっ」
腕を強引に引っ張られてその場に崩れて膝を付いてしまう。