君想歌
真正面から向き合おうとする
栄太郎の言葉は間違っていない。


むしろ正しい。


私が親が居なくなってから
人間関係を極力絶ったのは、

――悲しむのが嫌だから。


「栄太郎……。
少しだけ…弱いとこ見せて…
いいの?」

吐息と変わらぬくらいの
小さな助け。

片手を伸ばした栄太郎は
傘を上げた。


「くすっ。おいで」


栄太郎の優しい言葉に、
するりと番傘が手の中から
滑り落ちる。

栄太郎の着流しを掴んで
肩を震わせる。

あぁ。
まだ二回しか会っていないと
いうのに。


こんなに本心を見せてしまって。

伝わる人の体温を温かいと
感じたのはいつぶりだ?


濡れないよう傘をさしたまま、
片手で和泉の背を叩く栄太郎の
胸元に顔をうずめた。


「っく……栄太郎の…ばか」

「どうぞ。何とでも」

離せない。

この温もりを失いたくない。


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