君想歌
時たま和泉が予測不能な行動を
する時があるけれど。


こんなに理由も分からないのは
初めてだ。


俺が原因じゃ、無さそうだね。

「和泉〜」


ぽすぽすと背中を叩けば、
うーっと声をあげる。


涙交じりの声に頭を引っ掻く。

絶対離すかと吉田の着物を
握りしめる。

吉田の身体を抱きしめる和泉に
どうしようかと頭を抱える。



和泉としては。

誰より大切にしてくれる人と
離れなければならないと感じ
本心が抑えきれなくなっている。


近い内和泉がこうなると
吉田には分かっていた。

涙を溢すまいと顔を上げた
和泉は口を開く。


「もしも死なないで良いって
選択肢があるなら必ず生きて」


そしたらまた会える確率が
出来るから。

限り無く零に近い可能性。


もっと泣いて。
叫んで、大声で否定したい。


ぎりぎり精神の均衡を保つには
消えるかもしれない望みに賭けるしかなかった。


――春
桜散る夕方。

それぞれの道が違い始める。

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