ぎゅってね?
「莉子、お前足速過ぎ」

さっきまで見えていた晴天が急に見えなくなって、変わりに上からよく知った声が降ってくる。
空に向かって伸ばされていた私の手首をぎゅっと握った玲人は、

「捕まえた」

と、息を切らせてそういった。

「どう、して?」

「泣き虫だな、莉子は。相変わらず」

私の好きな太陽みたいな笑顔で玲人はそういうとそのまま私を立ち上がらせる。

そして一度私から手を離し、改めて私のほうに手を差し伸べた。

「手、つないでみれば分かるんじゃない?」

まじまじと玲人の手を見つめ、玲人の顔を見る。
玲人は優しく笑って、早くと急かす。

わけがわからず困惑しながら私はおずおずとその手に指を重ねる。

ぎゅっと、玲人と手をつなぐ。

ずっと、ずっと昔から知っていたような、

それでいて初めて握るような、

そんな不思議な感覚。

いつの間に玲人の手はこんなに大きくなったんだろう?

暖かくて、

優しくて、

私はずっとこの手に焦がれていた。

「好き、玲人が、好きなの」

私はあふれてしまった気持ちをそっと言葉という形に変える。

知ってる。玲人はそういって笑うとつないだ手の力を少しだけ強くする。

「もう、離す気ないから」

あの日離してしまった手を、今日ようやく私たちはつなぎなおした。
そして、もうこの手を離すことはないだろう。
私は玲人の指先から伝わる気持ちに応えるように、ぎゅっと握り返した。





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