社内恋愛なんて
薄暗い駐車場内でヘッドライトの灯りが見えた。


駐車場の端奥の方から発進音と共に車が出て行く。


慌てて、車の後を追う。


「部長! 待って!」


 大声で呼びかけるも、部長の車は、私に気付くことなく行ってしまった。


急に力が抜けて、その場にしゃがみ込む。


 ……行ってしまった。


間にあわなかった。


今なら言えそうな気がしたのに。


精一杯の勇気は空回りに終わってしまった。


 頭をがっくりと下ろして、ただひたすら地面を見つめる。


顔を上げることは、しばらくできそうにない。


「そんなところで何してる」


 ついさっき車で行ってしまったはずの部長の声が聞こえてきた。


驚いて顔を上げると、部長が歩いてこちらに向かってくる。


「え、今、行ったはずじゃ……」


 まるで幽霊でも見ているかのような心境だった。


「バックミラーに湯浅が見えたから、慌てて車を止めてきたよ」


 近付いてくる部長の姿に、うるっときた。


……間に合った。


「どうした、なんかトラブルでもあったのか?」


 心配そうに覗き込む部長。


私は立ち上がり、部長の目を見据えた。


「違います。部長に伝えたいことがあるんです」
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