御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
お父さんに報告した方がいいのかな。……それより、康弘さんにちゃんと謝らなくちゃ。
気をつかわせてしまったことや、結婚なんてとても大切な問題を、一方的に押し付けてしまったことも。
本当のことを言うと、私はちょっと……いや結構落ち込んでいる。康弘さんに恋人がいることが、なんだかさみしくて堪らない。
失恋、というのとは違いそうだけど……。お兄ちゃんを取られた妹、とか、そういう感じかもしれない。
激しい恋、というのではないけれど、私は康弘さんに、ずっと憧れの気持ちを抱いていた。
父がひとりきりで取り組んでいた困難な研究に、七年前入社した康弘さんは誠心誠意取り組んでくれた。
誰もが不可能だと笑い飛ばしていた父の研究は、成功を信じて疑わない父と康弘さんの血のにじむような努力で実った。
大きな声では言えないが、光本製薬が資本を提供してくれたのも、研究結果が成功だと分かってからだ。
当初は誰も相手にしなかった父の研究を理解し、こうして夢をかなえてくれた康弘さんは、父にとっても、私たち家族にとってもとても大切な存在だ。
そして弟しかいない私にとっては、理想の兄のように頼もしく憧れの存在だった。
どれくらい階段を上ったのか分からない。
ふと顔をあげると、目の前には行き止まりの鉄製の扉が立ちはだかっている。
いかにも『関係者以外立ち入り禁止』な場所だ。
これって屋上?
最上階近くからかなり上ってきたから、ホテルの建物のかなり上の方だということは間違いないだろう。
見つかったら、きっと怒られるに違いない。