御曹司は身代わり秘書を溺愛しています



開くわけないか、と思いながら目の前の扉にそっと触れてみる。
すると、意外にも扉は何のストレスもなくすぅっと開いた。

そのまま扉の先へ、一歩踏み出す。

するとその途端、見たことのない景色が目に飛び込んできた。


「わぁっ……!」


高層ホテルの屋上からは、はるか彼方まで輝く都心の夜景が広がっている。夜景というよりは、光の洪水だろうか。

様々な光を見下ろすように佇む、ひときわ高いこの建物は圧倒的な存在だった。

そこにいるだけで、まるで何もかもが自分の手の中にあるように感じられる。

吸い込まれる、と思いながら足が勝手に動いた。

まるで光の中にぽっかりと浮かんでいるようだ。現実離れした美しい世界。

もっともっと、近くで見たい——。


「それ以上は危ないよ。動かないで」


背後から不意に聞こえた声に、思わず足が止まって振り返る。

そこには、見知らぬ男の人が立っていた。

満月を背後に従えた黒いタキシード姿は、まるで一枚の絵のように美しい。
その幻想的な風景に、思わず見とれる。

誰……?
最初からここにいたの?


「そのまま動かないで。僕がそこへ行くまで下を見ないで」


彼が足早に近寄ってきて、ハッと我に返った。

そして自分が柵のない屋上の端、ぎりぎりの所に立っているのに気付く。

全身から、一瞬で血の気が引いた。

もしも落ちたら……と思うと、体がすくんで動かない。



「きゃ……」


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