御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
怜人さまが脱いだ上着をいつものくせで受け取ると、長い前髪の奥から陸が凄味のある視線を向けてくる。
そんな陸にちらりと視線を向けると、怜人さまは悪びれもなく「ありがとう」と言ってハンガーに上着をかけ終えるまで私を待ち、早く座るようにと椅子を引いてくれる。
「陸君、なにか食べたいものはある?」
「なんでも結構です」
「理咲は?」
「私もなんでも。……あ、エビチリは食べたいです」
ふと思いついてそう言うと、彼は青い瞳を細めて嬉しそうに微笑む。
その様子をみた陸の眼差しが、ますます鋭くなった。
「それじゃあそれを。あとはこれとこれを……」
一方的に高まる緊張感をものともせず、怜人さまは段取り良く注文を済ませ、無造作にネクタイを緩める。
「あの……」
「なにかな」
「今日はお時間を取っていただきありがとうございます。それに、姉が大変お世話になってます」
「別に君に礼を言われることじゃないよ。そろそろ僕の方でも君に連絡を取ろうと思っていたところだから」
「それはどういう意味ですか」
「僕の話はあとでいい。まずは君の話だ。君が僕に会いたいと言ったそうだから」
いきなり会話のペースをつかまれて、いつも口だけは立つ陸は面喰っている。
けれどそこは打たれ強い末っ子、気を取り直してオーラでは全くかなわない怜人さまを正面から見据えた。