御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
祖母の家は港から十分ほどの、高台の入り組んだ路地の奥にあった。
急な階段を上り、何度か来た道を戻り——ようやくたどり着いたというのに、何度呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。
「漁からは帰ってきている時間なのにな」
陸が古びた門扉を開けて中に入り、玄関の右手から続く小さな中庭を、身を乗り出すように覗き込んだ。
小さな二階建ての古家が並ぶその一角は、まるで時間から切り離されたように古びた佇まいだ。
けれど、高台から見下ろす景色はまるで絵葉書のように美しい。
彼方に白く光る海面が、この小さな漁港を包み込むかのように、冬の日差しを反射させている。
「何か張り紙がしてありますね」
中庭に入った陸に気を取られていると、用心深く辺りを伺っていた六車さんが、郵便受けの下に小さな張り紙があるのに気付いた。
『御用の方は××通りのよつば商店まで』と書かれた小さな張り紙に、私の目は釘付けになる。
「……父さんの字だよな」
いつの間にか背後に戻ってきていた陸が、何かを含む声で言った。
振り返って視線を合わせると、声に出さなくても『やっぱり』というお互いの心の声が聞こえてくる。
やっぱり、父はある程度回復して、ここで母たちと暮らしているのだ。