御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


張り紙に書いてあった住所は漁港近くの小さな商店街の中にあった。

昭和の色を濃く残した商店街の外れに位置するその店は、カレンダーの裏にマジックで『よつば商店』と乱雑に書かれた張り紙が張られただけの、営業しているのかどうかも分からない店だ。

建てつけの悪い引き戸を開けると、奥から何かを煮炊きする醤油の香りが漂ってくるのに気付いた。


「ごめんくださーい」


とってつけたような敬語で、陸が恐る恐る奥を覗き込んだ。

祖母の家には何度か訪れたことがあったが、こんな店をやっているとは聞いたことがない。

商店の張り紙がしてあっても、店先に何も並んでいないところを見ると、おそらくこれは、母が言っていた『つくだ煮や干物を作って売る商売をしている』工場的な場所なのでは、と想像できた。

調理の匂いが漂っているということは、奥で母たちが加工しているのかもしれない。


「お母さん、いるの!?……入るよ!」


思い切って中に続く扉を開けてみると、そこは意外に広い厨房だ。

古いステンレスの作業台が四つほどあり、その上にはビン詰された海産物の加工品が、所狭しと並んでいる。


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