御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


「お待たせ致しました。そちらのエレベータで十階までお上がりくださいませ」


にこやかに、でも目はちっとも笑っていない受付嬢にそう告げられ、私はエレベーターに乗り込んだ。

ポン、という柔らかい音と共に扉が開き、絨毯が敷き詰められたエントランスに出迎えられる。
役員室や応接室が並んでいそうなフロアだ。


「なんか、すごい……」


メール室とはいえ、やはり一流企業、面接はきちんと行われるのだろう。
よく考えてみれば、社内にくる郵便物を管理するのだ。中には重要書類だって含まれているに違いない。


「だ、大丈夫かな……」


私にできる仕事なんだろうか?

急に体中に緊張感が走り、お腹が痛くなってきた。
大丈夫、まだ時間はある。とりあえずトイレにでも行って落ち着こう。
私は人気のない廊下を、こわごわ歩き始めた。

「ふぅ〜」


幸いなことに腹痛はすぐに落ち着いた。
念のため早めに家を出たこともあって、約束の時間までまだに二十分ほどある。
いくらなんでも、席につくのはまだ早いだろう。私は手持無沙汰に鏡に向かった。

それにしても、豪華なトイレだった。
入った瞬間、勝手にふたが開いて……。思わず「どうもすみません」と言ってしまったほどだ。
こんなところで働けたら、さぞ快適だろう。
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