御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

受かればいいな……。そう思いながらメイクを確認し、そろそろ指定された場所へ向かおうとしたときだった。


「キャ————!!」


静かな高級トイレに、高い叫び声が響き渡る。
ずっと扉が閉まったままの個室から、突然発せられた奇声。その衝撃に、私は思わず持っていたカバンを落としかけた。


「どうしたんですか!?何かありましたか!?人を呼んできましょうか!?」


滅多に遭遇しない緊急事態。私は思わず、個室のドアを叩く。


「キャ—!!!」


個室の中での騒ぎはまだ収まらない。
誰か人を呼んできた方がいいのか。
しかしこの人を、このまま一人にしておくのも良くないような気がする。


「大丈夫ですか!?動けますか?鍵、開けられますか?どこか体調は……」


必死で問いかける私にお構いなしに、トイレの主はひとしきり騒いだあと、派手に流水の音をさせてから、ゆっくり中から出てきた。


「あの……」


派手な(ケバい?)という形容詞が、これほどあてはまる人物はいないのではないだろうか?
ほぼ金色に染められた髪と華やかなメイク。

一本ずつデザインの違うネイルには、洗顔することすら不可能なのではと思えるほど、スワロフスキーがこれでもかと盛られている。


「あのね!!今、検査したら、陽性だったの!!」


彼女は歓喜の表情で、初対面の私の手を握る。

見ると、もう片方の手にあるのは……。
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