御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

「でも、メール室の面接が……。紹介して下さった方もいるし、簡単にはお断りできません」


そうだ。人の道を踏み外しちゃダメだ。メール室のお仕事だって、最初はアルバイトからだけど、一生懸命やれば常勤雇用してもらえるかもしれない。

多くを望んじゃダメだ。……だけど、陸の次の学費、本当に払えるかな。


「メール室には今から私が理咲ちゃんの代わりに面接に行って、『家庭の事情で辞退します』ってきちんと話してくるよ。だから……お願い。この子の命は、理咲ちゃんにかかってるんだから!!」


そう言いながら、可憐さんが庇うようにお腹を撫でた。その自然な振る舞いに、すでにこの人は母親なのだと実感する。

政略結婚……。少し前まで、私の周りにも同じような話があった。
康弘さんとはあのパーティの日以来会ってはいないけれど、私たち家族に対して康弘さんが抱いていた感情は、多分私たちが思う以上に複雑なものだったのだと思う。

きっと最初は小さな行き違いだった。けれどそれは幾年も積み重なって、結果的に康弘さんにあんなことをさせてしまった。
だからと言って彼を許すことは決してできないけれど……。一方的に憎むこともまた、私にはできない。


感情と、欲望と。人間って、本当に厄介な生き物だ。

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