御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
翌日、私は何時もより三十分も早くオフィスに到着してしまい、手持無沙汰にデスクの拭き掃除などをしている。

昨夜はあれから、私の望みどおりイタリアンレストランに連れて行ってもらった。

メイン通りから外れた一角に位置するその店は、こじんまりしていながら内装、テーブルウェアからカラトリーに至るまできめ細かい配慮が張り巡らされている、とても素敵なお店だった。

高級感はあるのに、なぜだか気疲れしない。心地よく流れていく時間と、驚くほどおいしい料理。

自然に心が柔らかくなって、私と怜人さまはたくさん話をした。

お母様が亡くなったあと、怜人さまが十一歳からイギリスに戻り、十三歳からは一族の男性が全員卒業したという全寮制のパブリックスクールに通っていたこと。

誰もが知っている優秀な大学と大学院を卒業して、しばらく『Teddy 's Company』の本社で働いた後、三年前日本支社の統括CEOの職についたこと。

年齢は今年三十歳。私とは七つも歳が違う。金色の髪と青い瞳が怜人さまをとても若く見せていたことに、今更にように驚いた。

今まで避けていた私の身の上も、昨日は自然に話すことができた。
父が研究者だったことや、片腕だった康弘さんの裏切りで会社が倒産に追い込まれたこと……。

康弘さんと私の関係までは、話すことはできなかったけれど、怜人さまは何一つ追求することなく、ただ黙って私の話を聞いていてくれた。

それだけで、ずいぶん心が軽くなって……。ずっと張りつめて固くなっていた体が、すぅっと楽になった気がする。

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