御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
食事のあと、アパートまで送ってもらった。
別れ際に『何か困ってることがあったら、遠慮なく僕に相談してください』と優しく言われた後、そっと頭を撫でられた。
もしかして、あの『英国式挨拶』をするのかも、なんてちょっとドキドキしていたから、なんだか気が抜けてしまった。
いや、決して残念とかそういうことではないんだけど。
昨夜もあのカシミアのストールに触れながら眠った。本当は返さなくてはいけないと思うけれど、あれだけはどうしても手元から離す気になれないのだ。
あのストールに触れている時だけ、私は思う存分怜人さまに甘えることができる。頬に触れたり、時にはそっと抱きしめたり。
上質なカシミアの柔らかで滑らかな手触りは、怜人さまそのものだ。
最近、自分で自分が分からない。
ドキドキするかと思えば、泣きたいほど切なくなる。あの海のような瞳に見つめられたいと思うのに、見つめられれば苦しくて息ができない。
忙しく移り変わるこの感情の正体。
その答えを、私はまだ知りたくはなかった。今感じているこの気持ちは、ちょっとでも油断すればその大きな流れにさらわれるほどの激しさをはらんでいる。
それに、自分の身の程をわきまえることだって、もう私は知っているのだ。