御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
「だけど僕は、あなたと食事をしたいんだ」
珍しく駄々っ子のように聞き分けのない怜人さま。
耳慣れない日本語でのやり取りに、レイチェルが訝しげな視線を投げつける。
「怜人さま。わざわざ来て下さった方をおもてなしするのは、当たり前のことです。私のことは気になさらないでください。……それに、レイチェルさんは帰国されますけど、私はまだずっとここにいるわけですし」
黒のシックなスーツに鮮やかなワインレッドのネクタイを合わせた怜人さまは、いつにもまして華やかだ。
『私のもの』と言わんばかりに再び腕にしがみついたレイチェルが、『早く行きましょうよ』とせっつくのを、怜人さまは不服そうに見下ろしている。
「怜人さま、午後の予定も詰まっておりますので、お早くおでかけください」
努めて事務的に発した口調に、彼は不機嫌なくちびるをむける。そしてそのまま、ふたりはCEO室を出て行った。
「はぁ……」
私はひとり、デスクの上にふたつのお弁当を並べる。
華やかなブロンド美女を見た後では、手作りのナプキンに包まれたその存在は、なおさら頼りなく見える。
「しょうがないって……」
そうだ。もともとこんな質素なお弁当、怜人さまに食べさせられたものではなった。
昨日のあの豪華な食事のお礼がこれでは、普通ならバカにしてる、と思われても仕方がないところだ。
けれど、怜人さまは絶対バカになんてしないとも、心のどこかで確信していた。