御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
昨日の食事で大部分のことを話してしまったので、怜人さまは部屋にお風呂がないことを知っている。
その言葉に、珍しくピリピリとしていた怜人さまの表情がようやくゆるむ。
「銭湯、っていうんでしたっけ?」
「はい」
「一度僕も入ってみたいな。今日、一緒に行ってもいいですか」
「え!?」
あの下町の銭湯に怜人さまが?
地元のおじいちゃんやおばあちゃんたちしかいないあのお風呂屋さんに、怜人さまが入ったらどんなことになるのかと、想像してみたものの、想像力が追いつかない。
「ダメですか」
一瞬言葉を失った私に、怜人さまが淋しそうな目を向ける。私は小さく笑いながら答えた。
「もちろんいいに決まっています。お風呂屋さんは、誰が行ってもいいんですよ。だけどきっと、凄くびっくりなさると思います」
「新しい場所に出会えば誰だってびっくりするものですよ。でも、あなたがせっせと通っているのだから、きっと素敵な場所に決まっている」
そう言って立ち上がった怜人さまが、私のデスクに歩み寄った。
「理咲、今日のランチ——」
言いかけた言葉を遮るようにして、ノックの音と共に六車さんが入ってきた。
一瞬その場の空気に敏感に反応したものの、物おじすることなく怜人さまと私の間に割って入ってくる。