強引専務の身代わりフィアンセ
 ふたりきりの晩餐会。でも昨日よりずっと、柔らかい雰囲気で食事できた気がする。少し休憩して私は、なにかの書類に目を通している彼に声をかけた。

「今日は一樹さんがシャワーをお先にどうぞ。お疲れでしょ?」

 彼もやや着崩してはいるが、私たちは、まだ懇親会に参加したままの格好だった。

「でも、美和のその格好も疲れるだろ。俺はいいから、先に入ってくればいい」

「いいえ。こんな素敵な格好、なかなか機会もないですし、もうちょっと堪能しておきます」

「明日もあるだろ」

 努めて明るく答えると、彼からは呆れたような声が返ってきた。でも、逆に言えば明日の夜で終わりなのだ。その事実が、なぜか胸にちくりとした痛みを走らせる。

「今日、挨拶もできたし、明日は最初だけ一緒に顔を出してくれたらかまわない」

「はい」

「明日は、美和の好きな色のドレスを着たらいい」

 咄嗟に返事に迷う。ここにいるのは仕事でなのに、素直にはいと言っていいものか。一樹さんはゆっくりと立ち上がり、なにを思ったのかこちらに近づいてきた。

 私はつい身構えてしまい、一歩下がってしまう。背にはすぐに壁があって、ふたりでは十分に広い部屋にも関わらず、私はあっという間に狭い空間に追い詰められる。

「あの」

 前触れもなく、目の前の彼に抱きしめられ、私は目を見張った。爽やかな香りが鼻孔をくすぐり、体温が瞬時に伝わってくる。

 自分が今、素肌を晒している部分が多いので余計に感触や温もりがダイレクトに伝わってきて、熱が出そうだった。
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