強引専務の身代わりフィアンセ
 しばらく立ちすくんでいたけれど、私は思い切って「あの」と声をかけてしまった。すると、会話を続けていた彼が、こちらを振り向く。その顔には驚きが広がっていた。

「美和」

「お話のところ、すみません。お風呂、先にありがとうございました」

「ああ」

 なにも聞いていない、という態で私は取り繕う。電話の向こうからなにやら声がして、彼が苦虫を噛み潰したような顔になった。そして私の方に電話を差し出してくる。

「幹弥だ。美和に代わって欲しいらしい」

「桐生さん?」

 電話の相手が桐生さんだったことに、どこか安堵して、おずおずと電話を受け取ることにする。

「俺もシャワーを浴びてくるから。適当なところで切ってかまわない。むしろ、さっさと切り上げろ」

 その発言は相手に聞こえていたらしく『そんな言い方ないんじゃない?』と桐生さんの声が響いた。彼の背中を見送り、私は電話を耳に当てる。

「もしもし?」

『美和ちゃん、こんばんは。一樹くんとは上手くやってる? 襲われてない?』

 相変わらずテンション高めの桐生さんに、私は苦笑した。

「大丈夫です。ちゃんと、美弥さんの代わりをできているか不安ではありますが」

『そんな心配は不要だよ、美和ちゃんは美和ちゃんらしくでいいんだって』

「あの、桐生さん」

 さっきの一樹さんの発言が気になって、私はつい尋ねそうになった。けれど、それをぐっと思い留ませる。
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